相続コラム
認知症の方や未成年者・不在者がいる場合の遺産分割協議書作成
1 はじめに
遺産分割の当事者となるのは共同相続人です。しかし,他の共同相続人と全く面識がなく,どこで居住しているのかすらわからないといった場合もあります。また,共同相続人とはいえ,その中に判断能力がない人や未成年者がいる場合もあります。そのような人たちが共同相続人であった場合における遺産分割についてお話しします。
2 不在者がいる場合
遺産分割を行う場合,最初に相続人の調査を行います。(被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍・改製原戸籍・除籍などを収集して,相続人が誰なのかを確定します。)昔の戸籍関係の書類をみると,相続人の中に,“100年前くらいに出生していることは分かるものの,それ以外に情報が全くない”といった人がいる場合もあります。仮に,その人が共同相続人の1人であった場合,その人が不在者となることがあります。
不在者がいる場合,基本的に2つの処理方法があります。①生存は明らかだが行方不明となっている場合には財産管理人の選任を家庭裁判所に求め,②不在者の生死が不明な場合には不在者の住所地の家庭裁判所に失踪宣告の申立てを行います。
① 財産管理人の選任
財産管理人の選任について,家庭裁判所の管轄は,「不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する裁判所」となります。それが分からない場合には,最後の住所地を管轄する裁判所になり,それも分からない場合には財産の所在地等を管轄する裁判所となります。
財産管理人が選任されたら,その財産管理人と一緒に遺産分割を行います。遺産分割は通常の財産管理人の権限の範囲を超えていることから,遺産分割の協議事項につき,財産管理人は家庭裁判所の許可を得た上で遺産分割協議に参加します。
② 失踪宣告の申立て
さきほど,100年前に出生していることのみが分かる共同相続人がいる例を出しました。昔は子が生まれてもすぐに亡くなってしまったり他の家に養子にいったりすることが多々ありましたが,そのようなケースでも戸籍はそのままにしていることがあったようです。すでに100年前に生まれた人で,しかも調査した戸籍を参考に住所地に行っても手掛かりが全くなさそうな場合には,失踪宣告が認められる可能性が高いと言えます。
失踪宣告には,普通失踪と危難失踪があります。上の例ですと,普通宣告でよいのではないかと思います。
失踪宣告の結果により,失踪宣告を受けた者は死亡したものとみなされますので,その者に相続人がいればその人が共同相続人となり,相続人がいない場合には相続財産管理人を選任(遺産分割を行う場合には家庭裁判所の許可が必要)することになります。そして,それらの者と一緒に遺産分割を行うことになります。
3 共同相続人の中に未成年者がいる場合
共同相続人が未成年者である場合は,相続人に代わって,その法定相続人が遺産分割を行うことになります。ただ,その法定相続人も同じように相続人であったり,法定相続人が未成年者の相続分を全て自分のものにしてしまったりする恐れもあります。このように法定相続人と未成年者との利益が相反する場合には,未成年者のために特別代理人を選任する必要があります。法定代理人が複数の未成年者を代理して遺産分割を行う場合も利益相反行為といえます。
特別代理人が選任されれば,その特別代理人を含めて遺産分割を行います。
4 共同相続人の中に判断能力がない人がいる場合
遺産分割協議をする場合,共同相続人は判断能力をもって行います。判断能力がない者が遺産分割協議をしても,その遺産分割協議は無効になります。そのため,判断能力のない人のために,家庭裁判所に成年後見開始の申立てを行うこととなります。選任された成年後見人を含めて遺産分割協議を行っていくことになります。
成年後見開始の申立てによってすぐに成年後見人が選任されるものではなく,急いで分割しなければならない場合もあります。その場合,家庭裁判所に対して,審判前の保全処分として,財産管理人の選任の申立てを行います。
5 まとめ
遺産分割では,遺産をどのように分配するかに目が行きがちですが,共同相続人が誰でどのような性質であるのかも非常に重要です。共同相続人の1人に何か上記のような問題があった場合,せっかくまとまった遺産分割協議が無効になってしまうこともあります。遺産分割協議は,他の制度と密接に関係してくるため,その制度にも気を付けるようにしてください。