相続コラム
遺産分割の対象について
1.はじめに
相続人は、被相続人の帰属上の一身専属権を除いて、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。ここでは、帰属上の一身専属権以外の全てが、「遺産」として包括的に承継されることが定められています。承継されるものの具体例として、個別の動産や不動産、債権および債務などが挙げられます。
もっとも、相続人が複数いるとき、遺産共有の対象となる「遺産」(民法898条)と、他方で、遺産共有の対象とならず、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、各相続人に帰属する「遺産」があります。
そして、遺産分割とは、遺産共有の対象となっている財産について、その財産が終局的にいかなる相続人に帰属するのかを確定するために行われます。
2.一身専属権
被相続人の一身専属権は、相続人が一人であるか複数人であるかにかかわらず、相続人に承継されません(民法896条但書)。つまり、遺産分割の対象となり得ないのです。
例として、代理権が挙げられます。民法111条1項1号は、代理権が被相続人の死亡により消滅すると規定しています。また、使用貸借における借主の地位(民法597条3項)、組合員としての地位(民法679条)も同様に、一身専属権といえるでしょう。
3.遺産分割時に存在しない財産
遺産共有となっている財産が、遺産分割「前」に、被相続人が所有していた建物が火災で滅失した場合や、相続人の一人によって動産が売却された場合、その財産そのものを遺産分割の対象とすることはできません。
もっとも、民法906条の2の規定により、遺産分割時点で存在しない財産であっても、相続人全員の同意があれば(相続人の一人が処分した場合においては、その者の同意を得ることは必要ない)、その財産が遺産分割時において存在するとみなすことができます。先の例でみると、遺産共有の対象となっていた財産が火災で滅失したケースにおいて、保険金請求権が発生したのであれば、相続人全員の同意により、その請求権を遺産分割の対象とすることができます。また、遺産分割前に動産が売却されたケースでは、その売却代金について、売却の当事者となった相続人以外の相続人全員の同意によって、その売却代金を遺産分割の対象とすることができます。
4.債権
不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権、売買代金支払請求権などの可分債権は、「遺産」に含まれます。しかし、「可分」であるから、遺産分割の対象とならず、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、各相続人に帰属します。
もっとも、判例上、預貯金債権は、相続開始と同時に相続分に応じて分割されないと解されています。その理由として、預貯金は口座において管理されており、相続人全員で預貯金契約を解約しない限りは常に残高が変動できるものとして存在する以上、各相続人に確定額の債権として分割されることはない、と説明されています。そのため、預貯金債権は、遺産共有の状態となり、遺産分割による処理が必要となります。
また、株式は、株主として会社に対して有する法律上の地位を意味するものであるため、相続開始とともに相続分に応じて分割される性質を有さない、不可分債権だとされています。そのため、株式は、預貯金債権と同様に、遺産共有の状態となり、遺産分割が必要となるのです。
5.動産
動産は、その特定がされている限り、相続開始と同時に相続分に応じて分割されず、各相続人による遺産共有の状態となります。そのため、遺産分割が必要となります。
現金(いわゆるタンス預金)も、遺産分割時に存在している限り、動産として、動産に準じた処理がなされます。この帰結として、当該現金を保管している相続人がいる場合、遺産分割前の段階では、その現金を保管していない相続人が自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないとされています。
6.おわりに
遺産分割の対象について、具体例を挙げつつ検討してきました。もっとも、「遺産」は上記以外も含め、多様な種類があります。遺産分割でお困りの方は、弁護士をはじめとする法律専門家に相談することをおすすめします。