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相続コラム

遺産分割における使途不明金の扱いについて

第1 はじめに

第2 使途不明金とは

第3 使途不明金の分類

第4 返還請求の手法とその注意点

 

第1 はじめに

「遺産が他の相続人に使い込まれているのではないか」、「原因は分からないが、口座から多額の預貯金が引き出されている」。遺産分割事件の解決にあたり、このような内容をしばしば相談されます。このようなケースにおいて、使い込まれた疑いのある財産を取り戻すため、考えられる主張や請求の内容について紹介します。

 

 

第2 遺産分割における使途不明金とは

被相続人の財産であるにもかかわらず、他の相続人等によって預貯金が引き出され、かつ、その使途が不明である場合、使途不明金の問題が発生します。

使途不明金の問題は、被相続人の死亡前に処分されたか、死亡後に処分されたかによって、分類することができます。両者では法律上の位置づけが異なり、遺産分割の進め方も異なることとなります(以下につき、片岡武 菅野眞一 「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務 第4版」 2021年 76-80頁参照)。

なお、本稿では、相続人の1人または数人により相続財産の一部が処分され、使途不明金が発生したと疑われるケースを念頭に、問題点やその後の対応について解説します。

 

 1 相続開始前に処分された財産

相続開始前に処分された財産の使途が不明な場合、第一に、被相続人の贈与意思を確認する必要があります。贈与意思がある場合、相続人の特別受益(民法903条)として主張することが考えられます。

贈与意思が存在せず、無断で預貯金が処分された場合、処分者以外の相続人の同意を得ることで、遺産分割の対象とすることができます(民法906条の2第1項及び第2項)。しかし、特に相続で問題が発生している場合には、遺産分割協議や調停を重ねても協議が平行線に終わることも少なくありません。そのような場合には、不法行為に基づく損害賠償や不当利得の返還請求を請求することで、訴訟による解決を検討します。

 

 2 相続開始後、遺産分割前に処分された財産の取扱い

相続開始後、遺産分割前に処分された財産の使途が不明な場合、以下の2つの場合が考えられます。

第一に、処分者が特定可能な場合です。まず、処分者の具体的相続分の範囲内で処分された使途不明金について検討します。このとき、相続開始後に処分された財産についても民法906条の2第1項及び第2項を適用することができます。従って、処分者以外の相続人の同意を得ることができれば、処分された財産について、遺産分割時に存在するものとして取り扱うことができます。この結果、他の相続人の具体的相続分が侵害されなければ、使途不明金が問題となることはありません。一方、他の相続人の具体的相続分が侵害される場合、遺産分割手続とは別に、不法行為に基づく損害賠償請求あるいは不当利得返還請求を提起することで、使途不明金について争う必要があります。

第二に、処分者が特定不可能あるいは処分者と思われる相続人がその処分を否定している場合です。この場合、処分者が認定できない以上、民法906条の2を適用することはできません。使途不明金について争うためには、先述の不法行為に基づく損害賠償請求あるいは不当利得返還請求を提起する必要があります。

 

 

第3 使途不明金の返還請求の方法

第一に、遺産分割手続の中で、先述のように、処分者以外の他の相続人から同意を得ることで(906条の2第1項及び第2項)、使途不明金を相続財産の対象とすることが考えられます。しかし、この方法は、他の相続人からの協力を得ることが必要不可欠となるので、この方法を活用できるケースは限定されるでしょう。

 

第二に、遺産分割以外の裁判手続による請求が考えられます(以下につき、片岡武 菅野眞一 「改正相続法と家庭裁判所の実務」 2019年 88-90頁)。

 

 

第4 使途不明金をめぐる問題における注意点

最後に、使途不明金をめぐる問題の注意点について紹介します。

一部の相続人の協力を得られない場合、遺産分割協議や遺産分割調停で使途不明金問題を解決することはできず、別途民事訴訟により解決する必要があります。これは、使途不明金が問題となる多くのケースに該当すると考えられます。民事訴訟の提起を検討した場合、当該訴訟はもちろん、遺産分割協議そのものも長期化すると考えられます。

さらに、使途不明金を認定するにあたっては、民事訴訟上、しばしば問題となる争点があります(以下につき、藤井伸介 「審判では解決しがたい遺産分割の付随問題への対応-使途不明金・葬儀費用・祭祀承継・遺産収益分配等-」 2017年 36-39頁)。

 

 1 使途不明金の引出権限の有無

引出行為者が被相続人名義の口座から預金を引き出したとしても、被相続人の同意や承諾がある場合や、引出行為者が正当な引出権限を有していた場合、引出行為について、違法性・不当性は認められません。また、被相続人が認知症診断を受けているような場合には、被相続人の意思能力が問題となることもあります。

実務上は、引出行為者が引出権限を有していたことにつき、主張立証責任を負うものとされています。

 

 2 引出行為の立証

引出行為者に引出権限が認められなかったとしても、引出行為者の引出行為について、使途不明金の存在を主張する当事者が立証する必要があります。被告側(引出しが疑われている相続人)への金銭の移動状況、預貯金通帳の管理状況、被相続人の健康状態や病院施設への入院・入所の経緯について主張立証することとなります。

 

 3 引出金の使途

さらに、引出行為の立証と関連して、引出金の使途についても問題が生じることがあります。使途について引出人が十分に説明できない場合には、権限の範囲を超え、または、相当な範囲を超える引出行為であると認定される可能性が高くなります。