京都の相続対策に強い弁護士・法律事務所

  • 初回30分相談無料
  • 075-257-2520受付時間 9:00~20:00
  • 受付時間外でも予約で相談可
  • お問い合わせ

相続コラム

遺留分侵害額請求の合意書の書き方

——「遺産分割協議書」との違いと、見落としがちな注意点を京都の相続弁護士が解説

 

「遺留分について、相手方と話し合いがまとまりそうだけど、どんな書面を作ればいいのだろう」

「相手から『遺産分割協議書』という書面が送られてきた。遺留分の話なのに、このタイトルでいいのだろうか」

遺留分をめぐる交渉が合意に至ったとき、最後に待っているのが「書面化」という作業です。実は、ここでつまずく方が少なくありません。

せっかく話合いがまとまったのに、書面の作り方を誤ると、後から「言った・言わない」の争いが再燃したり、想定外の不利益を被ったりすることがあります。

この記事では、京都で相続事件を扱う弁護士として、遺留分侵害額請求の合意書を作るときに知っておいていただきたいことをお話しします。

 

目次

1.遺留分侵害額請求とは——2019年の改正で大きく変わりました

2.よくある間違い:「遺産分割協議書」と混同してしまう

3.正しい合意書の作り方——必須条項とサンプル

4.当事務所の経験上、特に注意していただきたいこと

5.弁護士に相談することのメリット

 

1. 遺留分侵害額請求とは——2019年の改正で大きく変わりました

 

そもそも「遺留分」とは

 

遺留分(つまり、亡くなった方が遺言を残していても、配偶者や子どもなど一定の相続人に最低限保証される遺産の取り分のことです)は、相続人の生活保障のために法律が認めた権利です。

たとえば、「全財産を長男に相続させる」という遺言があったとしても、二男や長女には遺留分があります。遺言によってその取り分を侵害された場合、侵害した側(この例では長男)に対して、侵害された分に相当するお金の支払いを求めることができます。

これが「遺留分侵害額請求」(つまり、侵害された最低限の取り分を、金銭で支払ってほしいと請求すること)です。

 

「減殺請求」から「侵害額請求」へ——お金の請求権になりました

 

2019年(令和元年)7月1日に施行された民法改正で、この制度は大きく変わりました。

改正前は「遺留分減殺請求」と呼ばれ、不動産などの現物そのものの返還を求める権利でした。そのため、たとえば自宅不動産について遺留分を主張すると、その不動産が共有状態(つまり、複数の人が一つの物を共同で所有している状態のことです)になってしまい、かえって紛争が長期化するという問題がありました。

改正後の遺留分侵害額請求は、純粋にお金の支払を求める権利(金銭債権)になりました。不動産の共有といった複雑な状態を避け、金銭で清算するシンプルな制度になったのです。

この「お金の請求権である」という性質が、実は合意書の作り方に直結します。

 

2. よくある間違い:「遺産分割協議書」と混同してしまう

 

似ているようで、法的性質がまったく違います

 

実際の現場でよく見かけるのが、遺留分の合意なのに「遺産分割協議書」というタイトルで書面を作ってしまうケースです。

どちらも「相続のお金の話合いがまとまったときの書面」という点では似ています。しかし、法的にはまったく別物です。

  • 遺産分割協議書:相続人全員で、遺産(不動産・預金・株式など)を誰がどう取得するかを決める書面。遺言がない場合や、遺言と異なる分け方をする場合に作ります。
  • 遺留分侵害額に関する合意書:遺言で財産を受け取った人が、遺留分を侵害された相続人に対して、いくら支払うかを決める書面。遺産そのものの分け方を決めるものではありません。

遺留分侵害額請求は、先ほどお話ししたとおり「お金の請求権」です。遺産の帰属(つまり、どの財産が誰のものになるか)は、遺言によってすでに決まっています。決まっていないのは「支払うお金の額」だけなのです。

 

タイトルと中身が食い違うと、何が問題なのか

 

「タイトルなんて形式的なもの。中身が合っていればいいのでは」と思われるかもしれません。しかし、実際の現場では、この食い違いが後々の火種になることがあります。

遺留分の合意なのに「遺産分割協議書」というタイトルにして、遺産の一覧(遺産目録)まで添付してしまうと、「これは遺産分割の合意だったのか、遺留分の合意だったのか」が曖昧になります。

後から別の財産が見つかった場合や、税務署とのやり取りが生じた場合に、「この書面は何の合意を記載したものか」をめぐって解釈の争いが起こりかねません。

当事務所の経験上、合意書は「法的性質に合ったタイトルと、必要十分な記載」で作るのが、後日の紛争を防ぐ一番の方法です。書きすぎも、書かなさすぎも、トラブルのもとになります。

 

インターネットの雛形やAIの起案にも、同じ落とし穴があります

 

最近は、インターネットで雛形を探したり、生成AIに合意書の起案を頼んだりする方も増えています。

ただ、実際の現場では、AIに遺留分の合意書を起案させると、「遺産分割協議書」というタイトルで、遺産目録まで添付した過剰な書面が出てくることがあります。AIは文章を整えることは得意ですが、「この合意の法的性質は何か」という根本の見極めを誤ることがあるのです。

雛形やAIの出力をそのまま使う前に、「この書面は、自分たちの合意の法的性質に合っているか」を確認する。この一手間が、将来の紛争を防ぎます。

 

3. 正しい合意書の作り方——必須条項とサンプル

 

タイトルは「遺留分侵害額に関する合意書」

 

まず、タイトルは合意の法的性質をそのまま表すものにします。「遺留分侵害額に関する合意書」や「合意書(遺留分侵害額請求)」といった表記が適切です。

 

必ず盛り込むべき条項

 

合意書に最低限盛り込むべきなのは、次の項目です。

  • 当事者の特定:誰(請求した側)と誰(支払う側)の合意か。被相続人(亡くなった方)の氏名と死亡日も記載します。
  • 支払額:遺留分侵害額として支払う金額を明記します。
  • 支払方法と期限:振込先口座、支払期限。分割払いの場合は各回の金額と期日も。
  • 清算条項(この合意で定めたもの以外には、お互いに何も請求しないことを確認する条項のこと)紛争の蒸し返しを防ぐために設けます。

条項のイメージ

 

第1条 乙は、甲に対し、被相続人○○(令和○年○月○日死亡)の相続に関する遺留分侵害額として、金○○○万円の支払義務があることを認める。

第2条 乙は、甲に対し、前条の金員を、令和○年○月○日限り、甲の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

第3条 甲と乙は、甲乙間には、本合意書に定めるもののほか、被相続人○○の相続に関し、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

 


 

 

これはあくまで骨格のイメージです。実際の事案では、当事者の関係や合意内容に応じて、条項を加えたり修正したりする必要があります。

 

遺産目録は、原則として不要です

 

遺産分割協議書では遺産の一覧が必要ですが、遺留分の合意書では原則として不要です。

決めるべきことは「支払うお金の額」であって、遺産の帰属ではないからです。むしろ、遺産目録を付けることで「遺産分割の合意」と誤解される余地を残してしまいます。書面は、必要十分な記載にとどめるのが鉄則です。

 

4. 当事務所の経験上、特に注意していただきたいこと

 

清算条項の範囲は、慎重に決めてください

 

先ほどご紹介した清算条項は、紛争の蒸し返しを防ぐ大切な条項です。しかし、その範囲には注意が必要です。

たとえば、合意の後に、誰も知らなかった財産(隠れていた預金口座など)が見つかったとします。清算条項で「相続に関し、何らの債権債務がない」と確認してしまっていると、その財産について改めて請求することが難しくなる場合があります。

実際の現場では、「本合意書作成時に判明していない遺産が新たに発見された場合は、別途協議する」といった留保を付けるかどうかを、事案ごとに判断しています。請求する側か、支払う側か。立場によって、清算条項をどう設計すべきかは正反対になります。

 

支払の確保——「合意したのに払われない」を防ぐ

 

合意書を作っても、相手が支払わなければ意味がありません。

分割払いにする場合は、「1回でも支払いを怠ったときは、残額を一括で支払う」という期限の利益喪失条項(つまり、分割で払える権利を失わせる条項のこと)を入れておくのが通常です。

さらに、支払額が大きい場合や相手方の資力に不安がある場合には、合意書を公正証書(つまり、公証人が作成する公文書のこと)にしておく方法もあります。強制執行認諾文言を付けた公正証書にしておけば、支払が滞ったときに、裁判を経ずに相手の財産を差し押さえることが可能になります。京都市内には公証役場がありますので、当事務所でも必要に応じて公正証書化までサポートしています。

 

税金のことも、忘れずに

 

遺留分侵害額として金銭を受け取った場合、相続税の課税対象になります。すでに相続税の申告を済ませている場合には、修正申告や更正の請求といった税務手続が必要になることがあります。

当事務所では、提携する税理士と連携して、合意後の税務手続までワンストップでご案内しています。合意書を作って終わり、ではないのが遺留分の実務です。

 

時効にも注意——交渉中でも時間は進みます

 

遺留分侵害額請求権には、「相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年」という時効があります。

話合いを続けているうちに1年が経過してしまうと、権利そのものが消滅するおそれがあります。交渉が長引きそうな場合には、内容証明郵便で請求の意思表示をしておくなど、時効への手当てをしたうえで交渉を続けるのが実務の鉄則です。

 

5. 弁護士に相談することのメリット

 

「書面のチェックだけ」でもご依頼いただけます

 

「交渉は自分たちで済ませた。書面だけ確認してほしい」というご依頼も、当事務所では歓迎しています。

相手方やその代理人が作った合意書案には、相手方に有利な条項がさりげなく入っていることがあります。署名・押印する前の最終チェックは、それほど費用をかけずにできる、有効な保険です。

 

金額の妥当性も見極められます

 

そもそも、合意しようとしている金額は妥当でしょうか。

遺留分侵害額の計算には、不動産の評価、生前贈与の扱い、債務の控除など、専門的な論点が多く含まれます。実際の現場では、ご自身で計算された金額と、法的に正確に計算した金額が大きく食い違っているケースも珍しくありません。署名する前に、一度計算の根拠を確認しておくと安心です。

 

「相続後」の親族関係まで考えた書面を作れます

 

遺留分の争いは、兄弟姉妹など近しい親族の間で起こることがほとんどです。

当事務所では、「相続『後』に笑って楽しく安心できる生活を」という理念のもと、単に法的に有効な書面を作るだけでなく、その後の親族関係をできる限り損なわない解決の形を、依頼者の方と一緒に考えています。