相続コラム
AIに相続について相談する時代
—京都の相続弁護士が「便利さの正体」を解説—
【シリーズ第0回・前編】AIに聞いた相続相談——弁護士がチェックしてみた
はじめに——AIに相続について相談する時代の到来
京都で相続事件を扱う弁護士として、10年余り実務に携わってきました。ここ2、3年、ご相談に来られる方の口から、こんな言葉を聞くことが急速に増えています。
「ChatGPTに聞いてみたんですけど」
「Claudeで調べたら、こう書いてあったんです」
「Geminiに相談したら、こう言われました」
生成AIの普及により、相続の悩みを最初にAIに相談する方が珍しくなくなりました。当事務所には京都市内だけでなく、宇治市・長岡京市・亀岡市など京都府全域から、また滋賀県や大阪府からもご相談に来られる方がいらっしゃいます。地域を問わず、初回相談の前にAIで予習されている方が増えているという実感があります。
深夜に、亡くなったご家族の通帳を整理していて疑問が湧いたとき、週末、相手方からの手紙を受け取って動揺したとき、法律事務所が閉まっている。そんなとき、すぐに答えてくれるAIは確かに心強い存在です。
私自身も、日々の業務でAIを活用しています。判例の整理、論点の洗い出し——AIは思考の壁打ち相手として有用です。だからこそ、AIの長所も短所も知っている弁護士として、お伝えしたいことがあります。
本シリーズ「AIに聞いた相続相談——弁護士がチェックしてみた」では、実務経験を交えながら、AIに相続について相談することのメリットと危険性を率直に解説していきます。
第0回前編となる本コラムでは、まず「AIに相続について相談することの便利さ」について整理します。後編では、その便利さの裏に潜む「3つの危険」を解説します。
目次
第1 AIに相続について相談する4つのメリット
第2 しかし、「便利さ」だけで判断していいのか
第3 次回予告——AIに相続について相談することの「3つの危険」
第1 AIに相続について相談する4つのメリット
まずはフェアな出発点として、AIに相続について相談することのメリットを整理します。これらは、私自身もAIを業務で活用していて実感する点です。
1 多角的な視点を提示してくれる
「遺産分割でもめています。考えられる主張をすべて挙げてください」と質問すると、AIは特別受益、寄与分、使途不明金、遺言の効力、遺産の評価方法など、関連する論点を網羅的に提示してくれます。
人間の弁護士でも、その日の調子や経験の偏りで、見落とす論点はあります。AIは論点の網羅性において、人間を上回ることがあります。
私自身、訴状や準備書面を起案する前に、AIに「この論点で考えられる主張を全て挙げて」と質問することがあります。10年以上の実務経験を経た弁護士でも、思考の漏れがないかをAIで確認するのは極めて有用です。AIは、思考の壁打ち相手として優秀です。
2 24時間、いつでも相談できる
深夜、亡くなったご家族の通帳を整理していて疑問が湧いたとき。週末、相手方からの手紙を受け取って動揺したとき。弁護士事務所は開いていません。
当事務所では土日・夜間相談にも対応していますが、それでも「今この瞬間に何かを知りたい」という時間帯はあります。たとえば、京都の依頼者の方が亡くなった親の通帳を深夜に発見し、不審な出金履歴を見つけて夜眠れなくなる——そんな場面は珍しくありません。
AIなら、いつでも質問に答えてくれます。「今すぐ何かを知りたい」という瞬間の不安を和らげる効果は、確かにあります。相続のような人生の重大事において、不安を一人で抱え込むことのリスクは大きいものです。AIに話を聞いてもらうだけで、気持ちが整理されることもあります。
3 法律用語の解説が分かりやすい
「遺留分侵害額請求」「特別受益の持戻し」「祭祀承継」——法律用語は難解です。AIに「中学生にもわかるように説明して」と頼めば、平易な言葉に翻訳してくれます。
これは、弁護士に相談する前の予習ツールとして非常に有用です。
当事務所では「依頼者の気持ちを最大限に汲み取る」ことを大切にしてきました。そのために重要なのは、依頼者の方がご自身の状況を整理した状態で相談に来られることです。基礎知識を持って相談に来ていただければ、限られた時間で本質的な議論ができます。「公正証書遺言とは何か」「遺留分の割合はいくらか」といった一般論はAIで予習し、相談の時間は「ご自身の事案でどう判断すべきか」という本質的な議論に充てる——これが最も効率的な使い方です。
4 弁護士相談の心理的なハードルを下げる
「こんな初歩的なことを弁護士に聞くのは恥ずかしい」と感じる方は少なくありません。実際、私が独立して8年以上、当事務所に来られる依頼者の方の多くが、最初のご相談で「もっと早く相談していればよかった」とおっしゃいます。
簡単な悩みが後に大きな問題を引き起こすことや、弁護士に相談すべき案件かどうか弁護士に相談してみないと分からないこともあります。「もう少し早く相談してくれれば…」と思うことが、私自身、何度もありました。
一般に弁護士への相談はハードルが高いとされます。だからこそ、当事務所では初回30分相談無料・土日夜間対応・落ち着いた個室の会議室といった工夫をしてきました。それでも、最初の一歩を踏み出すのは依頼者の方にとっては大きな決断です。AIなら、どんな初歩的な質問にも、丁寧に答えてくれます。「相談する」という行為の練習相手として、AIは優れています。
AIで自分の疑問が整理されてから弁護士に相談すれば、より的確な助言を受けられます。AIは、弁護士という専門家への入口として、確かに役立っているのです。
第2 しかし、「便利さ」だけで判断していいのか
ここまで、AIに相続について相談することの便利さを述べてきました。
しかし、便利さの陰には、必ず危険が潜んでいるものです。AIに相続について相談することも例外ではありません。
私は、業務でAIを使っていく中で、AIが堂々と間違ったことを言う場面に何度も遭遇しました。一例をご紹介します。
ある相続事件で上申書を起案中、私はAIに「使途不明金の立証責任に関する判例を教えて」と質問しました。AIは即座に「最判平成20年6月10日が有名です」と答えました。
しかし、私はこの判例の存在を疑い、判例データベースで確認しました。すると——それはヤミ金融に関する判決で、預金引出しの立証責任とは全く無関係だったのです。
もし、私がこの判例を信じて上申書に引用していたら——相手方の弁護士から「この判例は本件と無関係です」と指摘され、依頼者から「先生、判例を間違えたんですか」と信頼を失っていたかもしれません。
これは、AIの危険性のほんの一例に過ぎません。京都地裁・京都家裁で実務に携わる中で、AIの「もっともらしいが間違った回答」に出会うことは、決して珍しくありません。
AIに相続について相談することには、こうした「取り返しのつかない事態を招きかねない危険」が存在します。便利さの陰に潜むこの危険を知らずにAIを使えば、依頼者にとっても、弁護士にとっても、深刻な事態を招きかねません。
第3 次回予告——AIに相続を相談することの「3つの危険」
次回(第0回・後編)では、AIに相続を相談することの「3つの危険」を、実体験とAI自身の自己分析を交えて解説します。
【次回の内容】
危険1:AIは100%正解ではない——古い用語、地域差の無視、判例の捏造
危険2:法的に関係のない論点や、紛争を激化させる主張
危険3:最悪のシナリオ——「自分に不利な主張」を堂々としてしまう
特に、別のAI(Gemini)に「AIはなぜ間違えるのか」と直接質問した結果、AI自身が自分の構造的弱点を率直に認めた回答も紹介します。AI自身が認めるAIの限界——それは、AIを使う上で知っておくべき重要な事実です。
また、後編では「AIと専門家の正しい使い分け」についても具体的に提案します。AIを否定するのではなく、AIと専門家を上手に組み合わせて、依頼者にとって最良の結果を得る方法をご紹介します。
AIを使いこなしたい方も、AIの限界を知りたい方も、後編をぜひお読みください。
当事務所のご案内——AIで予習された方も歓迎します
当事務所では、AIで予習してから相談に来られる方を歓迎しています。論点が整理された状態でお越しいただければ、限られた時間で本質的な議論ができます。
「AIで調べたけれど、本当にこれで合っているのか不安」「AIに『こうすべき』と言われたけれど、自分の事案で本当に正しいのか確認したい」——そんな方も、ぜひ初回相談(30分無料)にお越しください。

