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相続コラム

AIに相続について相談することの「3つの危険」

——京都の相続弁護士が、AI自身も認める構造的弱点を解説

【シリーズ第0回・後編】AIに聞いた相続相談——弁護士がチェックしてみた

 

前回の振り返り——AIの「便利さ」

 

前編では、AIに相続について相談することの4つのメリット(多角的視点・24時間アクセス・用語解説・心理的ハードルの低さ)を整理しました。

京都の相続弁護士として10年余り実務に携わってきましたが、私自身も業務でAIを活用しています。AIは、思考の壁打ち相手として、また予習ツールとして、確かに有用です。

しかし——便利さの陰には、必ず危険が潜んでいます。本コラムでは、AIに相続について相談することの「3つの危険」を、京都での実務経験とAI自身の自己分析を交えて解説します。

 

目次

第1  危険1:AIは100%正解ではない

第2  危険2:紛争を激化させる主張をしてしまう

第3  危険3:「自分に不利な主張」を堂々としてしまう

第4  AIと専門家の正しい使い分け

第5  まとめ——京都の相続弁護士からのメッセージ

 

第1  危険1:AIは100%正解ではない

最も基本的な、しかし最も見落とされがちな事実です。

AIは、過去の膨大なテキストデータから学習し、「もっともらしい回答」を生成する仕組みです。個別事案の事実関係を正確に把握しているわけでも、最新の法令や判例を完全に反映しているわけでもありません

相続弁護士として実務に携わる中で、私が何度も見てきた典型的な誤りを、3つ紹介します。

 

典型例(1)古い用語のまま回答する

2019年7月、民法改正により「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」に変わりました。請求の性質も、現物返還から金銭請求へと根本的に変更されています。

しかし、AIは今でも「遺留分減殺請求」という用語で回答することがあります。これを信じて相手方に「遺留分減殺請求権を行使します」と通知してしまうと、相手方の弁護士から「現在の制度を理解していない」と見透かされてしまいます。

当事務所でも、AIで予習されてから来られた依頼者の方が「遺留分減殺請求というのですよね」とおっしゃることが、今でも珍しくありません。改正から数年経った今でも、この誤りは続いています。

 

なぜAIは古い用語を使うのか——AI自身に聞いてみた

私は、別のAI(Gemini)に「なぜAIは古い用語のまま回答するのか」と直接質問してみました。Geminiの回答は、率直なものでした。

AIの学習データには、改正前(2019年以前)の膨大なウェブ記事や過去の判例解説が含まれており、文脈上「遺言」「取り分」というキーワードから、統計的に結びつきやすい旧用語と旧制度の処理方法をそのまま出力してしまうためです。

 

AI自身が、自分の構造的弱点を認めているのです。これは、AIを使う上で知っておくべき重要な事実です。

 

典型例(2)地域・裁判所による運用の違いを無視する

「遺産分割調停はこういう流れで進みます」とAIは説明しますが、実際の運用は家庭裁判所ごとに異なります。京都家裁の運用、大阪家裁の運用、東京家裁の運用は、それぞれ微妙に違います。

 

AIは全国一律の一般論しか語れません。Gemini自身も、この点を認めています。

AIは法文上の原則論(条文の文言)を絶対視する傾向があります。各裁判所の柔軟な運用、実務上のテクニック、あるいは「京都家裁ならではの傾向」といった暗黙知・経験知をデータとして持っていないためです。

 

当事務所のように多数の相続事件を扱ってきた弁護士なら、京都家裁の調停委員の傾向、書面提出のタイミング、和解に至るまでの典型的なステップを肌感覚で知っています。しかし、AIにはこの感覚はありません。京都での相続事件を扱う場合、京都家裁の運用を知らないAIに頼ると、依頼者を遠方の裁判所に行かせる羽目になることもあります。

 

典型例(3) 存在しない判例を作り出す

これは深刻な問題ですが、AIは存在しない判例や条文を、もっともらしく生成することがあります。

実は、私自身も危うくこの罠にはまるところでした。

京都で扱った相続事件で、被相続人の預金を管理していた相続人が多額の出金を行い、その使途を説明しないという事案がありました。私はAIに「使途不明金の立証責任に関する判例を教えて」と質問しました。

AIの回答は明快でした。

最判平成20年6月10日が、引き出した側に立証責任を負わせる判例として有名です。

 

念のため、この判例が本当に存在するのか、存在しても内容があっているのか確認しました。

すると、最判平成20年6月10日は確かに存在しましたが、内容はヤミ金融に関する判決でした。預金引出しの立証責任とは全く無関係です。

もし私がこの判例を信じて上申書に引用していたら——相手方の弁護士から「この判例は本件と無関係です」と指摘され、依頼者から信頼を失っていたかもしれません。

 

Geminiは、この現象(ハルシネーション)について、こう説明しています。

AIは「もっともらしい文章」を確率的に生成する仕組み(ハルシネーション)を持っています。「認知症」「遺言能力」「最高裁判例」といった単語の組み合わせから、存在しない架空の判決文と基準を捏造してしまうことがあります。

 

当事務所では、判例や条文の引用には必ず原典確認を徹底しています。しかし、一般の方が「AIがそう言っているから本当だろう」と信じて主張すれば、後で恥をかくだけでは済まないこともあります。京都地裁での相続訴訟でも、AIに頼った主張が裏目に出る場面は今後増えてくると予想されます。

 

第2  危険2:紛争を激化させる主張をしてしまう

 

これは、AIに「反論案を作って」「相手方に送る手紙を作って」と頼んだときに発生します。

AIが生成する反論案は、論理的にはもっともらしく見えます。しかし、内容を見ると——

  • 法的には全く関係のない事実関係に踏み込んでいる
  • 単に感情的な反発に過ぎず、書面に書く価値がない
  • 相手方を必要以上に刺激し、紛争を泥沼化させる

——というものであることが少なくありません。

実務において、書面を書くということは、「言いたいことを全て書く」ことではなく、「裁判官の心証を意識して、書くべきことだけを書く」という、極めて繊細な作業です。AIには、この感覚がありません。

当事務所の理念の一つに「相続後に笑って楽しく安心できる生活を」というものがあります。相続紛争は、顔見知りの親族間で起こることがほとんどです。財産的に勝っても、その後の親族関係が決定的に壊れてしまえば、依頼者にとって本当の意味での解決とは言えません。AIの作る挑発的な書面は、この「相続後の人生」を破壊しかねないのです。

 

実例:相手方の人格を攻撃する書面

「兄は昔から家族に対して冷たく、母の介護も一切しなかった」——これは依頼者の本音かもしれません。しかし、これを書面に書いても、遺産分割の結論には全く影響しません。むしろ、裁判官に「感情的な依頼者だ」という印象を与え、心証を悪くするだけです。

AIに「兄への怒りを書面にしてください」と頼めば、AIは見事に怒りを文章化してくれます。しかし、その書面は依頼者を勝たせるどころか、不利な立場に追い込みます。

当事務所では、最初のご相談で「兄への怒り」を語られる依頼者の方こそ、書面の起案には特に慎重を期しています。感情を理解した上で、法的に意味のある主張だけを抽出する——これがプロの弁護士の役割です。

 

実例:相手方を逆上させる挑発的な表現

「あなたの主張は法的に根拠がない」「あなたの行為は不当である」——AIは強い表現を躊躇なく使います。しかし、こうした表現を受け取った相手方は、態度を硬化させます。

実務では、強く主張すべき場面と、相手方の顔を立てるべき場面の使い分けが結果を左右します。AIには、この機微が分かりません。

 

第3  危険3:「自分に不利な主張」を堂々としてしまう

これが最も恐ろしい危険です。

AIのアドバイスに従って主張したことが、実は自分にとって不利な内容だったというケースが、実務では発生しています。

AIは、立証責任の所在を誤って説明することがあります。Gemini自身も、こう認めています。

AIは「悪いことをした(と主張されている)側が言い訳を証明すべき」という一般的な道徳感情や論理に引っ張られやすく、民事訴訟法における厳密な要件事実と立証責任の分配(法律要件分類説)を正確に適用できないことが多々あります。

つまり、AIに「主張すべき」と言われた論点が、実は立証責任の所在から見て自分に不利な主張だった——ということが起こり得るのです。

 

実例(1) 特別受益を主張したら、自分も対象だった

「兄が生前に親から多額の贈与を受けている。特別受益として主張すべき」とAIに言われ、書面で主張しました。

しかし、兄から「あなたも結婚資金として援助を受けていたはず」と反論され、自分の特別受益まで持ち出されました。結果として、自分の取り分が増えるどころか、減ってしまいました。

 

実例(2) 寄与分を主張したら、立証で消耗した

「長年親の介護をしていたなら、寄与分を主張できます」とAIに言われ、主張しました。

しかし、寄与分の立証は極めて困難です。介護の具体的内容、費やした時間、それが「特別の寄与」と言える程度のものか——これらすべてを証拠で立証する必要があります。

結局、立証に膨大な時間と労力を費やし、認められた寄与分は数十万円程度。弁護士費用の方が高くつくこともあります。主張しなかった方が、精神的にも経済的にも楽だったというケースは珍しくありません。

 

実例(3) 使途不明金を主張したら、反撃された

「兄が親の口座から多額の出金をしている。使途不明金として主張すべき」とAIに言われ、主張しました。

すると兄から「では、母の財布から金を抜いていた件についても説明してもらおうか」と反撃されました。実は、自分も母の生前に小遣いをもらっていた経緯があり、それを特別受益(金額にもよりますが)と言われかねない状況になりました。

書面に一度書いた主張は、簡単に撤回できません。「AIに相談する前の方が、立場が良かった」という事態は、現実に起こり得るのです。

当事務所では、相続のご相談を受ける際、依頼者の方の事情だけでなく、想定される相手方の反撃まで含めて検討します。これは10年余りの実務経験で培った視点であり、AIには再現できない判断です。

 

第4  AIと専門家の正しい使い分け

ここまで読んで、「では、AIは使うべきではないのか」と思われたかもしれません。

私の答えは、「使うべき。ただし、用途を見極めること」です。

AIには、AIにしかできないことがあります。同時に、専門家にしかできないこともあります。両者を正しく使い分ければ、依頼者にとって最良の結果が得られます。

 

AIを使うべき場面

  • 法律用語の意味を理解する(「遺留分とは何か」など)
  • 一般的な相続の流れを把握する
  • 自分が知らない論点を洗い出す
  • 弁護士に相談する前の予習として使う

 

AIに任せてはいけない場面

  • 自分の事案で、どの主張をすべきかの判断
  • 和解案を受け入れるかどうかの最終決定
  • 書面に書く具体的な内容
  • 判例・条文の確認(必ず原典を確認)
  • 立証責任の所在の判断

最良のスタイル——AIで予習、弁護士で本番」

当事務所でお勧めしているのは、ハイブリッド型の使い方です。

(1) AIで基礎知識を整理する(予習)

(2) 自分の事案で何が論点になりそうか、AIに洗い出してもらう

(3) 弁護士に相談し、自分の事案で本当に主張すべき内容を確認する

(4) 弁護士の指示のもと、書面や交渉を進める

当事務所でも、AIで予習してから相談に来られる方が増えています。そうした方々の相談は、論点が整理されており、限られた時間で本質的な議論ができます。

 

第5 まとめ——京都の相続弁護士からのメッセージ

最後に、改めてお伝えします。

AIは、弁護士の代わりにはなりません。しかし、弁護士に相談するハードルを下げる入口としては、極めて有用です。

AI自身も、自分の構造的な弱点を認めています——古い用語の使用、判例の捏造、立証責任の誤解、地域差の無視、紛争激化を招く表現。これらは、AIに頼っただけでは避けられない構造的な問題なのです。

当事務所では、独立以来一貫して「弁護士相談のハードルを下げる」ことを意識してきました。「もう少し早く相談してくれれば…」と思うことが、私自身、何度もあったからです。

「こんなことを弁護士に聞いてもいいのだろうか」と迷うようなことでも、まずはAIで予習し、整理したうえでご相談いただければ、効率的に問題解決を進められます。AIで「これは弁護士に相談すべきだ」と気づいた段階で、お早めに専門家にご相談ください。

ただし、重要な判断は必ず専門家に確認してください。書面に一度書いたこと、相手方に一度通知したこと、裁判所に一度提出したものは、撤回が困難です。「AIがそう言っていた」という言い訳は、誰も助けてくれません。

次回(第1回)からは、具体的なテーマごとに「AIに聞いてみた結果、どこに問題があったか」を弁護士の視点で検証していきます。第1回は、本コラムでも触れた「使途不明金の判例をAIに聞いた話」を、より詳しく解説します。

京都の依頼者の方も、京都府外・滋賀県・大阪府からの方も、AIを使いこなしたい方も、AIの限界を知りたい方も、ぜひお読みいただければ幸いです。

 

当事務所のご案内——「AIで調べたけれど不安」な方こそ

当事務所では、AIで予習してから相談に来られる方を歓迎しています。論点が整理された状態でお越しいただけるので、限られた時間で本質的な議論ができます。

「AIで調べたけれど、本当にこれで合っているのか不安」「AIに『こうすべき』と言われたけれど、自分の事案で本当に正しいのか確認したい」——そんな方こそ、ぜひ初回相談にお越しください。

 

当事務所が選ばれる理由:

  • 依頼者の気持ちを最大限に汲み取る丁寧な対応
  • 複雑な事案であっても豊富な経験で対応
  • 事前見積りによる明確な弁護士費用
  • 税理士・司法書士等との連携によるワンストップ対応
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