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相続コラム

配偶者居住権の意義とその内容について

第1 はじめに

配偶者居住権とは、被相続人の配偶者に、居住建物の排他的な無償使用権原を認める制度です。平成30年の相続法改正により、新たに導入されました。

この制度は、高齢社会の広がりを背景として、被相続人の死亡後においても、配偶者が従来居住していた建物に居住することができる同時に、建物のみならず現金等の他の遺産も相続することで、配偶者の生活を保障することを目的としています。

この記事では、配偶者居住権が成立する要件や効果、メリットとデメリット、他の制度との関連について説明します。

 

 

第2 配偶者居住権の内容について

1 配偶者居住権の成立要件

配偶者居住権が成立するための要件は、以下の3つがあげられます(民法1028条1項参照)。

 

⑴ 配偶者が、相続開始時に、遺産である建物に居住していたこと

 

ここでいう「配偶者」とは法律上、被相続人と婚姻関係にあった配偶者に限定されます。内縁の配偶者、事実婚関係や同性婚のパートナーには認められません。

また、「居住している」とは、配偶者が配偶者居住権の対象となる建物を生活の本拠にしていたことを意味します。したがって、例えば、被相続人が所有する別荘や、すでに被相続人が老人ホームに入居済みであるときの住居などは、対象外です。一方、療養を目的とする一時的な入院や、ショートステイの場合、実質的には未だ被相続人が相続対象となる建物に「居住していた」とされます。

 

⑵ 建物が被相続人の単独所有であること、あるいは、被相続人と配偶者と二人の共有にかかるものであること

 

被相続人が居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合、配偶者居住権は成立しません(1028条1項ただし書)。これは、配偶者居住権が設定されることにより、他の共有持分権者の利益が不当に害される恐れがあるからです。

 

⑶ 配偶者居住権が設定されたこと

 

配偶者居住権の取得原因となる法律行為には、遺産分割、遺贈、死因贈与の三つがあります。

また、建物が第三者に遺贈されている場合や、配偶者以外の他の相続人に生前贈与、遺贈、特定財産承継遺言がなされた場合、建物は遺産分割の対象とならず、配偶者が配偶者居住権を取得することはできない点に注意が必要です。ただし、配偶者以外の他の相続人に対して建物の所有権を取得させ、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺言があった場合、一見して特定財産承継遺言のように見えますが、配偶者居住権により建物の所有権に制限が加えられることから他の相続人に対する負担付遺贈と解されるため、このような方法による配偶者居住権の設定は可能と解されます。

以上につき、片岡武/菅野眞一 「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務 第4版」 377-379頁参照。

 

2 効力

配偶者居住権の効力は、次の2点があげられます。

 

⑴ 建物の使用及び収益

 

配偶者は、配偶者居住権に基づき、建物を無償で使用及び収益することができます。ただし、建物の改築若しくは増築し、又は第三者に建物を使用若しくは収益させるときは、建物所有者の承諾が必要となります(民法1032条3項)。

また、配偶者は、居住建物の「通常の必要費」を負担します(民法1034条1項)。ここには、居住建物の保存に必要な修繕費、居住建物とその敷地の固定資産税も含まれると考えられています(東京家庭裁判所家事第5部 「東京家庭裁判所家事第5部

における相続法改正を踏まえた新たな実務運用」 64-65頁)。

 

⑵ 譲渡禁止

 

配偶者居住権は、他人に譲渡することができません(民法1032条2項)。譲渡を認めてしまうと、配偶者の従前の居住環境を確保する、という制度趣旨の達成が不可能となってしまうからです。

 

3 存続期間

配偶者居住権の存続期間の定めがないときは、その期間は配偶者の終身の間とされます(民法1030条前段)。ただし、遺産分割協議や調停、遺言によって終身とは異なる存続期間を定めることも可能です(民法1030条後段)。存続期間が定められた場合、適切な財産的価値の評価を行うため、その延長や更新はできないとされています(堂園幹一郎 野口宣大 「一問一答 新しい相続法-平成30年民法等(相続法)改正、遺言書保管法の解説」30頁)。

 

4 消滅事由と消滅後の法律関係

 

配偶者居住権は、以下の場合に消滅します(前掲東京家庭裁判所家事第5部 66頁)。

 

⑴配偶者が死亡した場合(民法1036条・597条3項)

⑵存続期間が終了した場合(民法1036条・597条1項)

⑶居住建物が全部滅失等した場合(民法1036条・616条の2)

⑷居住建物の所有者による消滅請求がなされた場合(民法1032条4項)

⑸居住建物が配偶者の単独所有となった場合(混同による消滅。民法1028条2項)

⑹配偶者が配偶者居住権を放棄した場合(債権放棄による消滅)

 

配偶者居住権が消滅した場合、配偶者は居住建物の所有者に対して、居住建物を返還

する必要があります(民法1035条1項)。ただし、配偶者が居住建物の共有持分を有している場合には、配偶者居住権の消滅を理由として、所有者から返還請求を受けることはありません(同条1項ただし書)。

 

 

第3 財産評価の重要性とその手法

配偶者居住権は、その財産評価を行う必要性があります。各相続人の具体的相続分の算定や特別受益との関係、遺留分侵害の有無の判断等、相続の様々な場面に影響を与えます。配偶者居住権の財産評価は、各相続人の利害に直結する、極めて重要なステップとなります。

 

配偶者居住権は、実務上、おおよそ以下のような計算式により算出されます。この方法は、「簡易な評価方法」と呼ばれることがあります。

 

配偶者居住権の評価額=

建物と敷地の現在の評価額-配偶者居住権付所有権の価額

 

詳細な計算方法については、ここでは省略します。建物の固定資産税評価額、配偶者の年齢、配偶者居住権の期間、建物の築年数等により評価額が決定されます。

評価時点については、特に寄与分・特別受益の主張がある場合、相続開始時と遺産分割時、2つの時点での評価が必要となるのが原則です。しかし、当事者全員の合意があれば、遺産分割時のみの評価で評価額を決定することができます(前掲片岡ほか 388頁)。

 

 

第4 配偶者居住権のメリットとデメリット

次に、配偶者居住権を設定するメリットとデメリットについて簡単に紹介します。

1 メリット

配偶者居住権が導入される以前は、金銭による遺産分割のために建物や土地が売却されてしまうケースや、配偶者が建物しか相続できず、手元に現金や有価証券が全く残らないケースが少なくありませんでした。

配偶者居住権の大きなメリットは、配偶者が慣れ親しみ長年にわたり居住してきた建物に引続き住むことが可能となることです。また、建物所有権の評価額よりも、配偶者居住権の評価額の方が低額の評価となります。その結果、遺産分割により、配偶者は建物の居住権に加え、預貯金や有価証券も相続することができるようになり、配偶者の生活全般を保障するような財産の相続が可能となります。

 

2 デメリット

一方、配偶者居住権のデメリットとしては、配偶者が建物を使用するにあたり、大幅な制限がかけられてしまうことがあります。例えば、先述した配偶者の建物の使用収益の制限や譲渡禁止があげられます。また、「通常の必要費」、すなわち、固定資産税や建物の保存に必要な修繕費についても配偶者が負担する必要があります。配偶者は何ら財産的な負担なしに建物に居住できるわけではない点に、注意が必要です。

さらに、建物の配偶者居住権負担付所有権を有する配偶者以外の相続人にとっては、その売却が極めて困難であるという大きなデメリットがあります。先述のような建物の使用・収益に関する制約はもちろん、そもそも「他人が現在住んでいる建物を購入する」という心理的障壁も存在します。これらの結果、建物を売却したいのに買い手が見つからない可能性があります。

 

実務では、配偶者、被相続人、配偶者以外の相続人、それぞれの視点からメリットとデメリットを考慮した上、配偶者居住権の設定を検討していきます。

 

 

第5 配偶者の居住権を確保するための民法上の他の方策について

配偶者の居住権を確保する方法としては、配偶者居住権の設定以外にも、以下の方法があります。

 

⑴リバースモーゲージの利用

⑵賃貸借契約、使用貸借契約を締結する方法

⑶共有分割とする方法

⑷配偶者の生存中における遺産分割を凍結する方法

 

これらのうち、リバースモーゲージ以外の方法については、相続人間の合意が必要となります。財産評価や遺産分割をめぐって相続人間で争いがある際には、合意を得ることが難しい場合も少なくないでしょう。

リバースモーゲージとは、自宅不動産に担保権を設定して、金融機関等と締結した金銭消費貸借契約に基づき、毎月の生活資金を借り受け、借受人が死亡した場合には担保に入れていた自宅を処分して返済するという融資形態のことをいいます。都道府県の社会福祉協議会や住宅金融支援機構、民間の金融機関等がそれぞれ取り扱っています。詳細は各機関の紹介をご覧ください。

 

リバースモーゲージのメリットは、老後生活中、毎月の返済は利息のみであること、自宅に住み続けながら老後の資金を確保できることがあげられます。

一方、デメリットとして、老後生活の長期化により、生存中に借入金額が貸付限度額に達してしまい建物が売却される可能性があること、不動産価格の下落により融資が打ち切られてしまうリスクがあります。

 

 

第6 終わりに

このコラムでは、配偶者居住権が成立する要件や効果、メリットとデメリット、他の制度との関連について紹介してきました。配偶者居住権は、遺言や遺産分割協議によって設定される必要がある権利です。権利の取得や財産評価にあたっては専門知識が求められる場面も少なくなく、また、遺産分割手続全般に大きな影響を与えることもあります。

配偶者居住権の利用を検討されている方は、弁護士をはじめとする法律専門家に相談することをおすすめします。